vol.11 あなたの「好き」は誰かとの時間の中に

撮った写真を見せ合う二人。「引きの写真が好き」「この背景が好き」といった感性を大切にしながら、お互いを撮り合うワークショップでした

7月18日(土)に久留米シティプラザで開催された、写真家・齋藤陽道さんのワークショップ。テーマは「手話などを通して自分や相手の好きを知り、シャッターを切る」。手話を言語にする人とそうでない人が集まり、自分の「好き」に向き合った時間についてお伝えします。

写真はコミュニケーションの結晶

ワークショップは初対面の人たちとペアになり、自分はどんな写真が好きかをお互いに伝え合うことから始まりました。ぎこちなく言葉を交わしていた参加者も、お互いを撮った写真を見せ合う頃には自然と顔を寄せ合い、笑顔になっていました。齋藤さんは「写真はコミュニケーションの結晶です」と話します。

中学生の頃までは、コミュニケーションが伴わず、お互いを知らない状態で写真を撮られるのが嫌で、逃げ回っていました。高校から石神井ろう学校に行き、友達と手話で会話できるようになったことで、人と話す楽しさを知ったと言います。その経験は苦手だった写真との向き合い方を少しずつ変えていきました。それでも、写真家になって最初の5年間は納得のいく写真が撮れなかったとのこと。

「褒められる写真を撮ろうとしていました。自分の『好き』を置いたままで」人と関わることが苦手で、空や猫ばかり撮っていた時期もあったそうです。しかし、勇気を出して一人のおじいさんの写真を撮らせてもらったことが転機になり、人の写真も撮れるようになったそう。「一歩踏み出すことが大切です」と齋藤さんは語ります。

手話で参加者へ話す齋藤さん。時折冗談も交えながら話していらっしゃいました

2人だから気付けた自分の「好き」

ワークショップでは、齋藤さんは何度も「自分の好き」を大切にしてほしいと話していました。

「流行っているものを、つい自分の『好き』と思ってしまいやすい時代です。でも、結局は、自分の『好き』が一番です」

参加者からは、

「撮影の最後の4分間、ペアの方との共同作業になった時間がとても楽しかった」

「人を撮るという制約があったからこそ、自分は風景を撮ることが好きだと気づいた」

といった感想が聞かれました。そこには、相手の好きなことを知り、自分の「好き」を掘り下げる時間の中で、相手がいることで1人では気付けないことに気付けるという発見がありました。

写真を撮り合う参加者たち。年齢も性別も関係なく、写真を通して交流していました

一緒にいられることは奇跡みたいなこと

齋藤さんに「久留米で写真を撮るなら、どんな場所ですか」と尋ねると、「誰かと一緒にいれば、そこが一番の忘れがたいところになります。有名な景色ではなく、何気ない道を歩き、一緒にご飯を食べる。そんな時間の中でこそ撮れる写真に価値を感じます」と答えてくれました。また、写真を撮るときには、手話だけでなく、握手をしたり、目を合わせたり、一緒に食事をしたりと、言語ではないコミュニケーションも大切にしているとのこと。

「誰かと一緒にいられることは、当たりまえのようで奇跡みたいなこと。その時間を真剣に楽しもうとしているうちに、そこは特別な場所になります」

私自身の経験を振り返ってみても、誰かと同じ時間を過ごすことで、そこにある何気ない風景が特別なものへと変わっていく瞬間があると感じました。齋藤さんの言葉に触れて、写真は「場所を写す行為」ではなく、「一緒にいられた奇跡の証」を残すことなのだと胸が温かくなりました。

質問に答えてくれる齋藤さん。好きな時間は子どもさんと遊ぶ時間だそうです!

「“話しグッチョ”したいです」

最後に、「齋藤さんにとって『グッチョ』な瞬間はありますか」と尋ねました。少し考えてから返ってきた答えは「話しグッチョ」という言葉でした。

「ゆっくり丁寧に話しグッチョする。一方的ではなく、お互いに話すこと。一人ひとりと話しグッチョしたいですね。」

私がワークショップで見た参加者たちの笑顔も、お互いを知ろうとした時間の中から生まれたものだったのだろうなと感じました。

久留米シティプラザで8月29日(土)から9月27日(日)まで開催される『プラザあちこち写真館』では、参加者が撮影した写真が2階の上空通路に33mにわたって展示されます。昼と夜では作品の見え方も変わるとのことで、これまでにない写真展になりそうです。作品を眺めるだけではなく、その一枚が生まれるまでの時間にも思いを巡らせながら、会場を訪れてみてはいかがでしょうか。

記事:吉田沙織/久留米市地域福祉課 

『プラザあちこち写真館』についてのお問い合わせ先:久留米シティプラザ 0942-36-3084