vol.9 パンクス精神が耕す誰もがフラットでいられる町の居場所

久留米市諏訪野町の市場通りに、夜になると灯がともり、賑やかな音楽が流れる「八百屋カフェ 農と音(のおと)」があります。店主の権藤デボラ和尊さん(以下、デボラさん)は、市内の市民活動において広く知られる存在です。今回はデボラさんに、お店の魅力や音楽を軸にした地域での取り組みについてお話を伺いました。
反骨精神と「人を怖がらせたくない」の同居
筆者がデボラさんと初めて言葉を交わしたのは、コロナ禍の大学生への食糧支援を巡るオンラインミーティングでした。丁寧で穏やかな口調の合間に、Zoomの画面越しに差し出されたピースサインが今も印象に残っています。
デボラさんは、プロのロックミュージシャンとして活動する傍ら、大手家電メーカーのマーケターとして働いた異色の経歴を持ちます。2011年の東日本大震災を機に久留米へ帰郷し、2016年、食と音楽の拠点「農と音」を開きました。
原点は、10代の頃に傾倒したパンク・ロック。当時のエピソードから浮かび上がるのは、一見矛盾するような二つの個性です。「昔から『権威への抵抗』というパンクの精神は自分の中にずっとありました。ただ、人を怖がらせてしまうようなパンク特有のトゲトゲしたファッションは好きじゃなかったんですよね。」とデボラさんは振り返ります。
「デボラ」という名も、10代の頃にデヴィッド・ボウイのような中性的メイクで街を歩いていた彼を見て、友人が少女漫画のキャラから名付けたものだそう。この反骨精神と繊細な優しさの同居こそが、現在のデボラさんの魅力に繋がっていると感じました。
「誰かのため、というのは好きじゃない」
「農と音」の店内では、誰に対しても丁寧でフラットな姿勢が徹底されています。デボラさんは、初対面同士のお客さんをさりげない気遣いで引き合わせ、自然な対話を促します。
「誰かのため、というのは好きじゃないんです。自分が面白いと思うから、自分がやりたいからやっているだけです。」
そう語るデボラさんが用意したフラットな空間では、さまざまな集まりが開かれています。取材時の「おとなのギターサークル」をはじめ、「アロマの会」や「映画鑑賞会」など。参加者は「やりたい」をフックに集まり、場を共有して楽しんでいます。プロのミュージシャンであるデボラさんですが、演奏に口出しは一切しないそうです。技術を教えるのではなく、ただにこやかに場を提供し、同じ目線でその空間を楽しんでいました。

「あなたのままでいい」という場所
デボラさんの活動は店の枠を超え、街へと滲み出しています。西鉄久留米駅東口エリアを盛り上げる手作りイベントとして企画された「くるめ未来図カフェ」、宮の陣での筑後川イルミネーション、能登半島地震の被災地支援から、大学生への食糧支援まで。そのフットワークの軽さで、多岐にわたる活動を展開しながら人と人を繋いでいます。

しかし「やりたいこと」を軸に突き進むなかで、店の立ち上げ当初には苦い経験もあったと言います。あるお客さんから「音楽があるところには私は2度と行きません」と告げられたことがあったそうです。「『やりたいことの枠』で囲ってラベリングすると分かりやすいけど、逆に人を遠ざけてしまうこともありますよね」と振り返ります。

「だれも排除せず、『あなた(のまま)でいいんだよ』って場所を作ることが、福祉だって思うんですよ。囲うことと、開くこと、そんな場作りをもっと色んな人達としたいですね。で、自分はもう音楽だけしたい」
そう笑うデボラさんですが、お店はまだ理想の空間を作るプロセスの真っ最中。活動はこれからも日常の地続きとして続いていきそうです。

記事:巽靖昭/くるめ災害支援ネット ハッシュ#
八百屋カフェ 農と音 (yaoya cafe nooto)0942-80-5125


