Vol.5『住宅街にある小さな家庭文庫』に込められた思い

住宅街の中に、16年続く「家庭文庫」があります。家庭文庫とは、個人宅の一部を開放し、近所の子どもたちへ絵本や児童書を貸し出したり、読み聞かせを行ったりする小さな図書室のこと。毎週月曜日、ご自宅の一部開放し、地域の子どもたちの成長を見守ってきた松本千恵さんの思いとは。
何か核が欲しかった
松本さんが運営する家庭文庫の名前は『ルピナス文庫』。鳥飼小学校の西側、校門から徒歩数分の場所にあります。旦那さんの仕事の都合で引っ越しが多かった松本さん。家庭文庫との出会いは、2007年、引っ越し先の仙台市でした。「『まつお文庫』という歴史のある家庭文庫に伺ったときに、私のやりたいことはこれだ!と思って。すぐ子どもたちに『お母さん、家庭文庫するから!』って宣言したんです」
長男が生まれてまもなく引っ越した越谷市の社宅で子育てしていたときに、子どもを見守りながら立ち話をしている親たちの横で子どもたちが元気に遊ぶ、その雰囲気が好きだったそう。「家に人が来るのが好き、お菓子作りが好き、親子が楽しめる場所が好き、だったんだけど、カフェをするほどもなくて。人が集まるのに、何か核になるものが欲しいなと思っていました」
引っ越した先でも興味があることには積極的に参加した松本さん。「絵本の会」の代表をしたり、図書館のおはなしボランティア講座に参加したり、という経験を得た後に家庭文庫に出会ったことで「家庭文庫がやりたいことをつなぐ核になる!」と思ったそうです。

家にいながら地域とつながる場所
文庫を始めたのは2009年の11月16日。そのため、毎年11月には“文庫のお誕生会”をしています。昨年のお誕生会は、子どもたち4人とケーキとシャンパンでお祝いしました。その後、松本家の猫「ひじきくん」と遊んだり、コマをしたり、思い思いに遊ぶ子どもたち。「残念だけど、今は本を読む子はあんまりいないですね。以前は大人のスタッフも多くて、おはなし会をしたり、手作りあそびももっとしていたのですが、私一人ではなかなかそこまで手が回りません。それでも来てくれる人がいることが励みです」
コロナの時は本当に来る人が減り、2019年に松本さんが立ち上げた、乳幼児と親のための『わらべうたとえほんの会』からつながった親子が1組だけ来てくれていたのが心の支えだったそう。「体の不自由な姉と住んでいるので、家でできる活動をしたいというのもベースにありました。その点、家庭文庫には、自宅にいながら地域とつながれる良さもありますね」

このシャンパンは、文庫によく来る子がお祝いに持ってきたものでした。
感謝の気持ちで続いている
「はじめは、私自身の子育て中に出会ってきた人たちへ直接恩返しができない分、文庫活動が間接的にでも恩返しになれば、と思ってやってきました。でも、今はただ、この活動が続けられていることへの感謝の気持ちの方が大きいです。家庭文庫がやりたくても、環境や家族の理解が得られずやれない方もいるので、その点私は幸せ。文庫に来てくれる子どもも大人も、応援してくれる家族も、そして家庭文庫を受け入れてくれている地域にも感謝。その気持ちで続いています」

昨年、還暦を迎えられた松本さん。取材の後には、結婚してからの半生を丁寧にまとめたものを送ってくださいました。そこには、始めるきっかけとなった『まつお文庫』についての記載も。
「まつお文庫は温かく、なぜか懐かしさを感じる場所だった」-。
私が「ルピナス文庫」を訪れて感じたこともまったく同じです。
住宅街の小さな家庭文庫は、地域の子どもも大人も優しく迎え入れてくれる場所であり、松本さんにとっては地域との懸け橋になるかけがえのない場所でもあります。

記事:淵上祥子/久留米市地域福祉課
ルピナス文庫のお問い合わせ先:0942‐34‐0641
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