Vol.6 心配しない、という選択

「基本的に、心配はしてないんよね」

そう言って、樋口由恵(ひぐちよしえ)さんは缶コーヒーを飲む。目の前では、今日もいろんな出来事が起きています。

久留米AU-formal実行委員会の一人であり、ひとり親世帯や生きづらさを抱えた人たちが集う場所「じじっか」を運営する(一社)umau.の副代表を務める由恵さん。「実家よりも実家」という想いを込めてスタートした「じじっか」は、ひとり親世帯や生きづらさを抱えた人たちを支える場所です。今は属性や世代を問わず、血縁を越えた繋がりを求める人たちのコミュニティとなっています。楽しいこともあれば、思わぬトラブルも起きる日常で、由恵さんは冷静に静かな熱を帯びながら、人や出来事と向き合っています。

そういう時期やんねー

「向き合うことはするけど、心配はしてない」

「『お金がない』と言われたら、『そういう時期やんねー』」

「死にたい」と言われたら、言葉をそのまま受け止めず、会話を少しずらしながら、なるべく本人が笑えるような状況に変化させるようにしています。相手に感情移入しすぎないのは、その人の人生をその人に返すための距離の取り方だと言います。それは突き放しでも、諦めでもありません。子ども同士が喧嘩をした時も、すぐに答えを与えることはしません。双方の理由を聴いて、自分の気持ちをちゃんと言葉にする時間をつくり、対話を重ねていきます。

感情に流されず、寄り添いすぎず。

家庭でも学校でも職場でもないこの場所で、その人たちを信じることだけは手放さず、静かに待ちます。

じじっかで子供たちと戯れる由恵さん

1時間泣きながら怒った日

今の由恵さんになるまでには、長い時間がかかりました。かつては「いい人でいなければならない」と思い、怒りの感情を抑えていたそうです。前職で当時の社長から「ちゃんと怒ったらいい。そうしないと不健康だ」と言われ、1時間泣きながら怒った経験が、価値観を大きく変えました。怒っても、人間関係は壊れない。その実感が残ったといいます。

「じじっか」を始めてから、強いストレスを抱えた時期もありました。その時、共にじじっかを運営する(一社)umau.代表の中村路子さんからかけられたのは、慰めではなく「何がしんどいか、自問自答を繰り返して、言語化してみて」という言葉でした。由恵さんは、路子さんから苦しみを否定されずに聞いてもらう時間の中で、「この人は私を裏切らない」と思える感覚が、静かに残ったそうです。

人を立方体で見る

由恵さんは、いろんな人と出会い向き合う中で、人は今見えている姿だけでできているわけではなく、そこには、いくつもの背景が重なっているかもしれないと考えるようになりました。

今、目の前にある言動や感情だけで、人を決めつけないこと。

一方向からではなく、立方体のように、少しずつ角度を変えながら、多面的に人と向き合っています。由恵さんの人や出来事との距離感は、その価値観から生まれています。

久留米AU-formal実行委員会との出会い

久留米AU-formal実行委員の人たちとの関わりの中で、誰かしらの小さくやってみたいことを応援する経験を重ねてきました。

課題を解決するよりも、日常の会話の中に埋もれている「叶える」を拾うこと。それによって視界が開けていったようです。誰かが自分を信じて動いてくれることが、その人の人生を動かすこともあるのだと、由恵さんは日々の現場で感じています。

記事:古賀 円/Chietsuku Project